エカテリーナ宮殿(その3)…1980年夏2012/03/13 21:05

井上靖著
『おろしや国酔夢譚』
1974年、文春文庫

「可哀そうなこと」
  そういう声が女帝の口から洩れた。
「可哀そうなこと、----ベドニャシカ」
  女帝の口からは再び同じ声が洩れた。光太夫にとっては一切のことが夢心地の中に行われていた。


 
 エカテリーナ2世はロシアの女帝であるが、もともとドイツ人。エカテリーナは勉強好き、勤勉な人物で、皇帝としての執務に専念した。ロシアの近代化にも力を傾注するが、農奴に対する圧制を続け、プガチョフの乱が起こるなど、不安定な時期もあった。エカテリーナ2世は文化、芸術を愛し、フランス文化に恋焦がれ、ヴォルテールと交流したことは有名である。
   ロシアのフランスびいきは相当なもので、ロシア文学を読んでいると、貴族たちが突然フランス語を使ったりして、不思議な印象を受ける。ロシアはウラル以東がアジアなので、モスクワ、サンクトペテルブルクなどから来た人は殊更にヨーロッパ出身であることを強調する。ロシアはビザンチン帝国の継承者とも称されるが、他方で西欧の文化や技術を貪欲に吸収した面もある。その点は日本と共通点があるともいえる。