コーンベルトのリッチフィールド(その11)…2007年秋~冬2015/02/03 20:38

ジョイス・キャロル・オーツ著、栩木玲子訳
『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選』
河出書房新社、2013年

<とうもろこしの乙女 ある愛の物語>
   とうもろこしの乙女は埋められるんだ。太陽の下、とうもろこしのタネをまいたところに体を横たえ、その上に土がかけられる。


   突然警笛が鳴り、貨物列車がやってきた。さすがアメリカというくらい、スケールの大きな貨物列車である。機関車には"BNSF"と書かれている。長距離の鉄道網を誇る鉄道会社である。アメリカは車社会で、列車の運ぶものは人間ではなく、物資であることの方が多い。
   BNSFは食材などの物資もけっこう運んでいるらしい。多くの貨車を従えて、機関車が通り過ぎていく。グレインエレベーターのすぐ横に線路が張り巡らされている。コーンベルトの大動脈を駈けていくいく貨物列車は壮観そのものである。


コーンベルトのリッチフィールド(その12)…2007年秋~冬2015/02/05 11:59

ジョイス・キャロル・オーツ著、栩木玲子訳
『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選』
河出書房新社、2013年
<とうもろこしの乙女 ある愛の物語>

   とうもろこしの乙女はろうそくの明かりに囲まれて眠っていた。大口をあけた深い眠り。いかにも薬を飲まされたって感じ。


   貨物列車が目の前を通過する。ここからはミシシッピ川も近い。ミシシッピ川は、コーンベルト地帯とメキシコ湾岸をつなぐ大河である。ミシシッピ川はアメリカ最長の川で、ミネソタ州からメキシコ湾まで流れている。日本に輸出されるトウモロコシの大半はニューオリンズ港、パナマ運河を経ているようだ。
   日本の家畜のエサはかなりの部分をアメリカからの穀物にたよっており、アメリカでの作物の出来に左右されることもある。最近では、エサの高騰など日本の畜産・酪農が直面する問題も深刻になっている。このリッチフィールドに行く前日、ミシシッピ川沿いのレストランでボリューム満点のステーキを堪能した。


コーンベルトのリッチフィールド(その13)…2007年秋~冬2015/02/07 07:34

ジョイス・キャロル・オーツ著、栩木玲子訳
『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選』
河出書房新社、2013年
<とうもろこしの乙女 ある愛の物語>

   ジュードによると、オニガラ族の儀式ではとうもろこしの乙女をゆっくり飢えさせてお腹の中をきれいに浄化してから、生きたまま祭壇にくくりつけるんだって。


   貨物列車はまだまだ続く。アメリカは何度か訪問しているが、長距離列車に乗った経験はほとんどない。ワシントンDCからニューヨークに行ったのが、一番長い乗車になるだろうか。アメリカでは郡(カウンティ)という地方自治体がある。基礎自治体ではなく、それと州の間にある、中間的な存在である。ペンシルバニア州に行った時、アリゲニ郡の事務所を訪問したことがあるが、郡というのは地味な存在との印象を受けた。
   ただ、アメリカでは基礎自治体がない地域(Unincorporated area)もあるので、郡にたよらざるを得ない場合も少なくない。このリッチフィールドはモンゴメリー郡( Montgomery County)にあり、最大の都市である。とはいっても、1万人もいない。だから、本当にこじんまりとした都市である。


コーンベルトのリッチフィールド(その14)…2007年秋~冬2015/02/10 09:05

ジョイス・キャロル・オーツ著、栩木玲子訳
『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選』
河出書房新社、2013年
<とうもろこしの乙女 ある愛の物語>

   強烈なガソリンの臭いがとうもろこしの乙女の感覚を刺激し、とうもろこしの乙女ははっきりと目覚めた。


   ようやく貨物列車が通り過ぎて行った。ワシントンDCからセントルイスにやってきた。最初DCにいた時は時差ボケあって、日中は睡魔に苦しめられていたが、だんだんと良くなっていた。しかし、またセントルイスに行くと、ちょっと時差があって、かなり心身にこたえる。でも、リッチフィールドに行ったのはセントルイスに着いた日ではなかったので、気分はまあまあだった。
   繰り返しにもなるが、こちらのトウモロコシは穀物として定義され、原材料として利用されるものなので、その場で焼いて、砂糖醤油をつけて食べるというタイプのものではない。あとから、ハワイに行って、トウモロコシに詳しい女性の専門家にも会ったが、”sweet corn” に対比されるのは“dent corn”ではなく、” field corn”だと教わった。未だに、よく理解はできていないが。


コーンベルトのリッチフィールド(その15)…2007年秋~冬2015/02/12 09:29

アーシュラ・K. ル=グウィン著、 谷垣 暁美訳
『なつかしく謎めいて』
河出書房新社、2005年
<玉蜀黍の髪の女>

   私は玉蜀黍について知っていることをぼんやりと思い出していた。奇妙なことに、玉蜀黍には野性種がないのだ。


   実は、この後にセントルイスの全米トウモロコシ協会を訪ねて、農家の皆さんとも意見交換した。「トウモロコシの生産そのものは赤字で、国からの補助金がないとやっていけない」との説明を受けた。アメリカの農業というと大規模で、儲かっている感じだが、そうではないとのこと。アメリカからのトウモロコシのかなりの部分が家畜のエサになる。
   ということは、日本で飼育される家畜の肉を食べるということは、アメリカのトウモロコシを間接的に食べていることになる。だから食料自給率もこの分少なくなってしまうのだが。リッチフィールドはイリノイ州にあるが、ここにはシカゴという大きな街もある。穀物も扱っているシカゴの商品取引所は世界最大の規模を誇る。先物などというと投機的なイメージで悪い印象を持つ人もいるが、日本だってコメの先物取引は江戸時代の大阪で行われていた。


コーンベルトのリッチフィールド(その16)…2007年秋~冬2015/02/14 09:23

アーシュラ・K. ル=グウィン著、 谷垣 暁美訳
『なつかしく謎めいて』
河出書房新社、2005年
<玉蜀黍の髪の女>

   アリアレは豊かな髪を、幾本もの三つ編みにして頭頂から垂らしている。滝のように流れ落ちる金色の……玉蜀黍色の髪。


   このコーンベルトは土壌も肥沃で、雨もそこそこ降るらしい。確かに、砂漠地帯ではトウモロコシ栽培はとても無理だし、大規模な灌漑設備をつくってやると割に合わないだろう。昔、地図帳で見たある地図を未だによく覚えているが、アメリカのトウモロコシ栽培と養豚の地域がほぼ重なっている。このあたりはトウモロコシだけでなく、大豆栽培や養豚業も盛んらしい。
   このあたり、海岸からは離れているので、大陸性の気候ということになるだろう。一日とか年間の気温差がけっこうあるようで、人間が住むにはちょっと厳しいかもしれない。見学したグレインエレベーターでは馬のエサも売っていた。このエサは高齢の馬専用のエサのようだ。


コーンベルトのリッチフィールド(その17)…2007年秋~冬2015/02/17 08:23

アーシュラ・K. ル=グウィン著、 谷垣 暁美訳
『なつかしく謎めいて』
河出書房新社、2005年
<玉蜀黍の髪の女>

   あんなに優しいほほえみと、あんなに見事な金色の髪を目にするためなら。そして自分自身が玉蜀黍である女性と一緒に玉蜀黍のお粥を食べるためなら。


   リッチフィールドの滞在は短時間だったが、実り多い訪問となった。アメリカの戦略物資であるトウモロコシを扱うグレイン・エレベーターを見られたことに満足した。また、ミズーリ州からミシシッピ川を渡ってイリノイ州にまで来られたことも良かった。また、ミズーリ州に戻ることになる。
   本当はリッチフィールにある由緒あるカフェでランチくらいしたかったが、研修の日程は過密だ。車の中でハンバーガーのランチになったことも何度かあった。今回、さすがにそれはなかったが、お昼はセントルイスで食べることになる。


レッドバンク(ニュージャージー州)旅情(その1)…1997年秋2015/02/19 11:24

ロバート・シルヴァーバーグ編、酒井昭伸他 
『SFの殿堂 遥かなる地平(2)』 
ハヤカワSF文庫、2000年 
 
〈フレデリック・ポール(レッドバンク在住の経歴あり)/ゲイトウェイ〉 
   スタンが十七歳を迎えた誕生日に、〈神の怒り〉がまたやってきた。 


   当時は日本で大店法の廃止の議論があり、同時に中心市街地活性化という課題も浮上していた。アメリカで中心市街地の再開発に成功した事例に着目して、いくつかの都市について調査を行っていた。
   日本でも名前が知られているワシントンDC、ニューヨーク、ピッツバーグ、ボルチモアを訪問したが、それまでは聞いたことがなかったニュージャージー州のレッドバンクという街にもやってきた。レッドバンクが中心市街地の再活性化に成功した事例を調査することが目的だった。


レッドバンク(ニュージャージー州)旅情(その2)…1997年秋2015/02/21 07:44

ロバート・シルヴァーバーグ編、酒井昭伸他 
『SFの殿堂 遥かなる地平(2)』 
ハヤカワSF文庫、2000年 
 
〈フレデリック・ポール/ゲイトウェイ〉  
   ゲイトウエイ小惑星でスタンが最初に驚いたのは、自分の体重がほとんどなにもないのと同じだということだった。 


   ニュージャージー州レッドバンクはニューヨーク市からちょっと離れたところにある。海や川にも恵まれた街である。疲弊した中心市街地を活性化させて、街を再生した実績がある。日本の商店街に似たところもあるが、ここの通りは店の売り場面積が大きく、品ぞろえがしっかりしていた。そうでないと魅力さに欠けるという話も聞いた。昔の名残りのある建物がきれいに並んでいて、美しい街並に魅了される。


レッドバンク(ニュージャージー州)旅情(その3)…1997年秋2015/02/24 08:32

ロバート・シルヴァーバーグ編、酒井昭伸他 
『SFの殿堂 遥かなる地平(2)』 
ハヤカワSF文庫、2000年 
 
〈フレデリック・ポール/ゲイトウェイ〉 
   タンは羨望でむっつししており、スタンはそれよりましな状態でもなかった。 


   ウルワースという看板があった。大手ディスカウントのチェーン店であり、地元の商店にとっては手ごわい相手である。ここでは「閉店セール」の表示があるので、この店はたたむということだろう。
   アメリカ東部では、一般に大型店舗に対する規制が強いためか、ニューヨークなども含めて、地元の商店がそれなりに保護されていることが理解された。欧米では都市開発の際に、景観や歴史的な側面も重視される。この時から相当時間が経っているので、レッドバンクの今がどうなっているか定かではない。