オルセー美術館(その8)<マイヨールの『パラソルを持つ娘』>…1998年夏2013/05/03 07:59

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(下)』
岩波文庫、1999年

    そこで彼は、こまかい修正はあとまわしにし、ひとまず荒塗りをはじめることにした。ものすごい熱の入れようだった。くる日もくる日も、一日中、はしごのやぐら台にのぼり、山をも動かすばかりの筋力をふるって、大きな刷毛をふりまわしていた。



    アリスティド・マイヨールの作品。マイヨールは19世紀終りから20世紀前半に創作活動を行ったフランスの彫刻家、画家で、比較的新しい時代の芸術家だ。最初は絵画が中心だったが、途中から彫刻に移っている。彫刻もかなり評価が高い。
    この絵画もなかなかきれいだ。日傘をさした女性の絵画はよく見かけるので、当時はモネかなんかの作品かと思ったが、マイヨールのものだった。

オルセー美術館(その9)<ゴッホの『医師ガシェの肖像』>…1998年夏2013/05/07 21:00

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(下)』
岩波文庫、1999年

   ああ、芸術作品を創造するためのこの努力、肉体を生み出し、生命を吹きこむために、血涙をしぼるまでのこの努力に、クロードどれほど苦しんだことか!たえまのない真実とのたたかい、そしていつも打ち負かされるたたかい、それはまさに天使とのたたかいだ!



   ゴッホの『医師ガシェの肖像』。医師ガシェはゴッホを診察していた精神科医とのこと。ゴッホというと耳を切り落とした自画像が有名で、狂気に満ちた印象があるが、この力強いタッチはなかなか迫力がある。ゴッホの絵を鑑賞していると、人間の苦悩が伝わってくる。この医師も精神的に大きな悩みを抱えていたとのこと。青い色のアクセントが素晴らしくて、余韻が残る名作だ。

オルセー美術館(その10)<美術館内部概観>…1998年夏2013/05/10 20:06

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(下)』
岩波文庫、1999年

   内部は、豪奢で奇抜をきわめていた。玄関の間には、古いタピスリー、古代の甲冑、古い家具、中国や日本の骨董品など、いっぱい並んでいる。左手に食堂があり、全面、漆の板を張りつめ、天井には真っ赤な竜がうねっていた。彫刻をほどこした階段には、たくさんの旗がひらめき、緑あざやかな観葉植物が羽根飾りのように上に向かって並べられている。



   オルセー美術館はもともと駅だった。だからこんなたたずまいをしている。それにしても駅を美術館にしてしまうとはたいしたものだ。セーヌ川をはさんでルーブル美術館と向かい合っている。オルセー美術館はこのように絵画や彫刻がきれいに展示されている。
   ゆったりしていて、歩いていると目の前に彫刻があらわれるので、面白い。ルーブルに比べると印象派の作品が多いこともあってか、題材もわかりやすいものばかりなので、飽きることがなく楽しめる。

オルセー美術館(その11)<ルノワールの『モデルの肖像』>…1998年夏2013/05/14 20:20

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(下)』
岩波文庫、1999年

   クロードは、近寄ることができないまま、周りの人々のことばに耳を傾けた。ついにまことの真実を描く画家の出現だ!新流派の雑魚どものような重苦しさはまったくない!なにも描かぬようで、その実、すべてを描くすべを心得ている!



   これも有名なルノワールの絵画である。実際には、小さめの絵画である。シルクハットをかぶった女性の横顔。凛々しくて、いい構図になっている。裸婦もいいが、こうした横向きの女性の絵もいい。
   ルノワールの絵に出てくる女性はみんなよく似た顔や表情をしている。これもルノワールのお気に入りのモデルだったとのこと。

オルセー美術館(その12)<マネの『草上の昼食』>…1998年夏2013/05/17 20:07

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(上)』
岩波文庫、1999年

   だが彼は、樹木と、光があふれる森の空間、そしてとくに草の上に横たわる裸の女には、われながら満足をおぼえるのだった。まるで自分の知らない他の画家、しかも自分よりはるかにすぐれた才能の持ち主が描いたのではないかと思うほど、生命の輝きに満ちた姿だった。



   これは当時、世間を騒がせたマネの『草上のピクニック』。マネ、モネと名前が紛らわしいが、マネがモネの師匠であった。パリの芸術界を震撼させたこの作品は今では世界的な遺産となった。確かに、素人目には、何が言いたいのかよくわからない作品だが、世間をあっと言わせる効果は大きかったに違いない。絵画芸術において、新時代を切りひらいた一作品と言えよう。

オルセー美術館(その13)<モネの『睡蓮の池、バラ色の調和』>…1998年夏2013/05/21 20:49

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(下)』
岩波文庫、1999年

   まもなくクロードの生活は、完全に絵のためだけのものになった。広いアトリエの調度品は、ごく簡素なものだった。椅子が数脚、ブルボン河岸以来の使い古した長椅子、それに、古道具屋から百スーで買った樅の木のテーブルだけだった。



   これはモネによる有名な作品。小さな湖とそれにかかる橋がいい題材となっている。小さな自然を愛する日本人にも受け入れられやすい作品だ。色使いもなかなかいい。秋の紅葉の美しさが何ともいえない。人間といいい自然といい風景といい、印象派の絵画は何でもうまくはめてしまう。『睡蓮の池、バラ色の調和』という作品だが、なんでも日本の浮世絵の技法を参考にし、太鼓橋をイメージして描かれたという。

オルセー美術館(その14)<セザンヌの『リンゴとオレンジ』>…1998年夏2013/05/24 20:18

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(下)』
岩波文庫、1999年

   その小品は、細心の注意をはらい、並々ならぬ努力を傾けて完成したのだったが、それでもこれまでの作品と同じく、審査員たちを怒らせ、落選の運命をたどった。画家たちの間では、酔っぱらいがほうきで描いたような絵だとの、もっぱらの評判だった。



   セザンヌの絵画。このリンゴの絵は当時、物議をかもしたようだ。いったい何のための絵画なのかと。そして、リンゴもなんとなく不安定だ。うまくお皿やテーブルに乗っているわけでもない。今では果物などを絵画の題材にすることが多い。静物画というと現在ではしっくりはまるが、当時としてはこんな絵画も突拍子もないものだったらしい。

オルセー美術館(その15)<マチスの『豪奢、静寂、そして逸楽』>…1998年夏2013/05/28 21:32

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(下)』
岩波文庫、1999年

   そもそも、だれもが同じ穴のむじなだった。たいていの者は絵を一目見るとすぐに思ったことを口にするのであるが、ついで当作品の署名を見たとたんに、あわててことばを濁すのであった。そのうちだんだん用心深くなり、まず背を丸めて作者を確認したあとでないと口を開かなくなっていた。



   これはちょっと時代が新しくなる。マチスの絵だ。日本でもちょっとした絵画愛好家が好む絵だ。ちょっとしたサラリーマンでもマチスの版画を描っている人は少なくない。シャガールのリトグラフを持っている人も多いが、作風はだいぶ違う。マチスの絵画は毒っぽい要因もないし、普通の家の居間あたりに飾ってもうまくはまる。これは『豪奢、静寂、そして逸楽』という作品。

オルセー美術館(その16)<ロートレックの『黒いボア』>…1998年夏2013/05/31 21:07

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(下)』
岩波文庫、1999年

   この全体の再審査というのが、またおそろしく厄介な仕事なのだ。委員は、審査会が二十日間続いたあと、守衛たちが準備作業をする二日間だけ休息できるとはいえ、所定の午後、三千点もの落選した絵がずっと並ぶ中に入ったときはぞっとしてみぶるいするのである。その中から、規定の入選作二千五百点の不足分を補うために、再度選定を行わなければならないのだ。



   これもロートレックの絵。やはり他の絵と同じように独特の不気味さがある。しかし、それがゆえに印象は強い。見入ってしまう絵だ。この女性の周囲にあるオーラみたいなものも見えてくる。ロートレックの絵全体がそうだとも言えるが。人間の苦悩、悲しみが体にこびりついているのを感じとれる。
   弱い者や社会的に阻害された人などに視点が集まっている。数年前に、 日本でロートレック展が開かれた時に、この『黒いボアの女』はポスターにも使われたことがあるようで、けっこう知られた作品になっている。