オルセー美術館(その4)<ロートレックの『ムーラン・ルージュの踊り』>…1998年夏2013/04/19 20:13

エミール・ゾラ著、清水正和訳
『制作(上)』
岩波文庫、1999年

   笑ってない者は怒りくるっていた。絵の青みがかった色調、光の効果の新しい表現性も、彼らには侮辱としか思えなかった。このような芸術の侮辱をだまって見過ごしていいのか?数人の老人などは、ステッキをふりまわしていた。

    オルセー美術館にはロートレックの絵画がけっこうある。ロートレックは健康に恵まれず、障害を持って生きたためか、その絵画には独特の趣がある。この『ムーラン・ルージュの踊り』にしても、ドガのものとは異なる。ロートレックの絵にはある種の毒といえるような作風が感じられる。
    当時としては、踊り子は大変身分が低く、かなり苦労していたようである。そうした弱い者への視点もあるのだろうか。川端康成の『伊豆の踊り子』にしても、書生から見たら身分の卑しい存在だった踊り子を題材としたものであり、単なる純愛で総括できるようなものではない。ロートレックの絵画にはつい見入ってしまうような魅力がある。