生きた鶏のいる市場…1999年春2010/09/18 01:04

『鉄の時代』
J・M.クッツェー著、くぼたのぞみ訳
2008年、河出書房新社

 とにかく彼が屠っているのは家畜ではない。とにもかくにも、たかが鶏、はかな鶏目と誇大妄想を抱えた鶏なんだ、と自分にいいきかせた。それでも、わたしの心は農場から、工場から、自分のかたわらで暮らす女性の夫が働いている企業から、離れようとしない。後はそこで、くる日もくる日も、あの柵をまたぎ、右に左に、前に後ろに、次から次へと、血と羽根の臭気のなかて、憤慨して鳴きわめく、けたたましい騒ぎのなかて、手を伸ばし、つかみあげ、押さえ込み、縛りあげ、吊るす作業をしていたのだ。


 広東州広州市。場所はどこあたりだったかよく覚えていない。たぶん、広州物園と南越王墓博物館の近くだったと思う。ショッピングセンターだか市場だかがあったので、のぞいてみた。鶏を扱っているところがあった。かつてのソ連もそうだったが、冷蔵庫が発達していないところでは生きたままの鶏を売ったり、その場でさばいたりしていた。新鮮さを保つためには、この方法が一番だろう。中国も経済的に急速に発展を遂げてきている。10年ほど前の写真だが、大昔の風景なのかもしれない。