シテ島のカフェ…1998年夏2010/04/20 21:12

  フランソワーズ・サガン著、河野万里子訳
 『悲しみよこんにちは』
 2009年、新潮文庫


 そのとき不意にアンヌの声がして、わたしは飛び上がりそうになった。
「セシル、食べるものは?」
「朝は飲みものだけでいいの。だって……」
「あと三キロは太らないと。見場をよくするためにはね。頬がこけてるし、あばら骨が見えるわよ。バターを塗ったパンを取っていらっしゃい」
 そんなものを押しつけないでとわたしがたのみ、アンヌがどうしても食べたほうがいいと理由を言いだそうとしたとき、父がおしゃれな水玉もようのガウン姿で現れた。



 シテ島のカフェでランチ。ここはノートルダム寺院をはじめ見所も多い場所。ここにも素敵なカフェがある。フランス語は勉強したことがないので、全く話せない。それでも、ガイドブックにあるフランス語を話したくなって、これを棒読みして、ミルクティーとハムサンドを注文する。何とか通じた。
 パンにハムをはさんだだけのシンプルなものだ。かたいのでナイフで切って食べる。フランスパンは自分でつくってみると分かるが、小麦粉、イースト菌、塩だけでつくることも多い。こうしたシンプルな食べ物だけに、本場のフランスパンはうまい。


 これは席から見た風景。みんなゆったりとお茶や軽食を楽しんでいる。日本でも最近はこうした屋外の席が見られるが、降雨量が多いせいか、いまひとつ普及しない。


シャンゼリゼのフーケ…1998年夏2010/04/16 21:54

 ヘミングウェイ著
 『移動祝祭日』
 2009年、新潮文庫

「競馬にいくときは、そういう格好でもいいの?」
「いや。これはカフェにいくときの格好だから」
「でも、洒落てるじゃない」女性たちのひとりが言った。「パリのカフェ・ライフって、あたしも見てみたいな。あなただってそうでしょ?」



 パリほどカフェの似合う街もないし、パリのカフェほど快適に過ごせるところもない。広々としているし、おしゃれだし、至福の時間を過ごすことができる。
 世界的にも有名な「フーケ」に入る。シャンゼリゼ通りにあり、凱旋門も近く、パリの一等地にある。
 一度だけではなく、幾度か入った記憶がある。最後は早朝だった。道路にもっとも近い特等席に陣取る。料金はその分高くなる。サービスも良いので、しっかりチップも渡す。

ノートルダム寺院…1998年夏2010/03/02 22:53

 ユゴー著、佐藤朔訳
 『レ・ミゼラブル(一)』
 1967年、新潮文庫

 ミリエル氏が司教に昇進してしばらくしてから、他の数名の司教と一緒に、皇帝によって帝国の男爵にされた。周知のように、法王の逮捕は、一八〇九年七月五日の夜から六日にかけて行われた。このおりに、ミリエル氏は、パリで召集されたフランスとイタリアの司教会議に、ナポレオンから呼ばれていた。この会議は、ノートル・ダム寺院で、フェッシュ枢機卿を議長として一八一一年六月五日に初めて開かれた。ミリエル氏はそこに出席した九十五人の司教の一人だった。しかしただ一回の会議と、三、四回の特別協議会にしか出席しなかった。山間の教区の司教として、田舎者らしさと貧しさの中で、自然のすぐそばで暮らしていた彼は、身分の高い人びとの間に、会議の空気を一変させたほどの思想を持ち込んだらしい。彼はすぐにディーニュに引返してしまった。どうしてそんなに早く帰ってきたかと訊かれて、彼はこう答えた。「わたしのいることがみんなの邪魔になったのだ。外部の空気が、わたしと一緒に入ったのでね。ドアがあけっぱなしのような気持にさせたのですよ」



 パリのシテ島にある大聖堂。ディズニーのアニメ『ノートルダムの鐘』はあまりにも有名。原作はユゴーだけど、アニメの方のイメージが強い。ストーリーはかなり異なる。ユゴーの原作はおどろおどろしい内容だから、そのままアニメにするわけにはいかないのだろう。

 アニメの紹介ついでにいうと、日本のアニメ『ラ・セーヌの星』でも主人公のシモーヌはシテ島の住人だった。花屋の娘という設定。始まりの歌だったか、フランス語のせりふがあって、これがやけに美しい響きだったのを覚えている。

 シテ島という名前からフェリーでも使っていくのかと思っていたが、普通に橋を渡って陸路で行ける中州の島。島という実感がない。ノートルダム寺院はフランスのローマン・カトリック教会の総本山であり、ゴシック建築の最高傑作でもある。とげのある尖塔、バラ窓が特徴的で、少々威圧感がある。